遺産分割未了での相続税申告と小規模宅地等の特例の留意点
○ご相談内容
先日お父様の相続が発生している方がご相談に来られました。相続人は4人いるとことです。お父様は昔から続く老舗を経営されており、長男であるご相談者もその老舗に従事していることから、その跡を継ぐことが決まっていたようです。お父様はその老舗に関する土地(土地Aとします。)を長男に相続させる旨の遺言書を作成していましたが、これ以外の財産については記載がありませんでした。お父様は他にいくつか土地(土地B等とします。)をお持ちであり、そのいずれもが特例対象宅地等に該当する余地がありました。
しかし、相続税の申告期限までに遺産分割協議が整う見込みはない状態であるから、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出して、分割協議が確定してから小規模宅地等の特例を受ける土地を選択したいとのことでした。
○小規模宅地等の特例の基本
小規模宅地等の特例とは、残された遺族の生活や事業の継続が相続税負担により困難となることを避けるため、その生活や事業をする土地(特例対象宅地等と言います。)の課税価格を大幅に減額する特例です。土地は高い相続税評価額がつくことが多く、この特例を受けられるかで相続税の金額は大きく変わってきます。
小規模宅地等の特例は大きな優遇措置ですので、当然特例を受けるための限度があります。したがって特例対象宅地等が複数ある場合は、特例を受けることのできない土地も出てくるのです。このとき、特例を受ける土地を取得する人と特例を受けない土地を取得する人とでは、税負担の不均衡が起こる場合があります。したがって、特例を受けるためには特例対象宅地等を取得する全ての人の同意が必要となります。(租税特別措置法施行令第40条の2第5項)
また、相続税申告書の申告時において遺産分割協議が整わず、分割されていない特例対象宅地等がある場合、原則的にその特例対象宅地等の特例を適用することができません。ただし、相続税の申告書を提出する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」も提出しておくと、申告期限後3年以内に遺産分割協議が確定した時点で分割されていなかった特例対象宅地等は特例を受けることができます。(租税特別措置法第69条の4第4項)
○ご相談への当てはめ
今回のご相談では、申告期限において、土地Aについては遺言書により遺産分割が確定しており、土地B等は未分割であるという状況です。したがって、土地B等は申告期限後に遺産分割協議が整えば小規模宅地等の特例を適用することができますが、土地Aは当初申告期限において分割されており、特例を適用しない申告をした場合には、土地Aについては特例を適用しないとの意思表示をしたとみなされ、以後特例の適用をすることはできません。
ではどうすれば当初申告時に土地Aについて特例を適用できるのでしょうか。上記の通り特例を受けるためには、特例対象宅地等を取得する全ての人の同意が必要となります。当初申告時において、土地B等は未分割であることから相続人全員の共有状態、つまり他の相続人も特例対象宅地等を取得している状態なのです。したがって、当初申告時に特例対象宅地等を取得していた人だけではなく、特例対象宅地等を取得する可能性のある人全員の同意を取り付ければ、土地Aについても特例を適用できると考えられます。
分割協議で合意のないまま、特例だけについては同意しましょうというのは非常に難しいものです。しかし、特例の優遇を逃して増える相続税額などを相続人間で話し合い、現実的な判断をされることが大事です。今回のご相談者には、土地Aに特例を適用できなかった場合における相続人全員の増税額などのアドバイスを致しました。
○参考裁決
国税不服裁判所(平成26年8月8日裁決)