遺産分割協議中に生じた相続不動産の賃料の帰属について②

○はじめに
 前回、遺産分割協議中に生じた相続不動産の賃料は、共同相続人が法定相続分に応じて分割取得することを紹介しました。今回は、この賃料と税務の関わりをご紹介します。

○所得税の問題
 所得税について、その年の所得は翌年の3月15日までに確定申告しなければなりません。もし年末において、遺産分割協議がまとまっていなかった場合、相続不動産は共同相続人の共有状態であることから、そこから得られた賃料も法定相続分に応じて所得計算の基礎となります。従って、一時的に誰かが賃料の全部を管理していようとも、共同相続人はその賃料を法定相続分に応じて取得したものとして、所得税の申告・納付をしなければなりません。
 それでは、この遺産分割協議が年をまたいでまとまり、賃料の全額を誰かに単独取得する合意が同時にされた場合、この申告納付した所得税はどうなるのでしょうか。遺産分割の効力は相続開始日に遡ることを理由に、所得税の申告も遡ることができるのでしょうか。
 しかし、民法には、遺産分割の遡及によって「第三者の権利を害することができない。」と規定されています。この第三者には税務署長も含まれていると考えられるので、遺産分割協議の結果がどうであれ、所得税の修正申告又は更生の請求書は受理されることはありません。

○贈与税の問題
 共同相続人は遺産分割協議中の賃料を法定相続分に応じて取得する権利を有しています。しかし、法定相続分で清算せず、特定の人が賃料を取得する清算をした場合、賃料を取得しなかった他の共同相続人が有していた法定相続部分の賃料はその賃料取得者へ贈与したこととなります。もしこの贈与したとされる賃料が多額であれば、贈与税の問題が出てくるのです。
 この問題を避ける手段は、法定相続部分の賃料を、賃料を受け取らない共同相続人から賃料取得者への代償交付財産であることを遺産分割協議書に明記することで、この賃料の清算を相続財産の分割手段の中に取り込んでしまうことです。ただしこの場合は、相続税の計算基礎が変動することとなります。

 遺産分割中の賃料の帰属は、相続財産と切り離されていることにより、その扱いが非常に複雑に絡み合っています。前回にご紹介の通り、事前に防ぐ手段として遺言が非常に有用です。しかし、相続が開始し遺産分割協議となった場合は、専門家に相談し不意に課税されないようにすることが大切です。

○参考
国税庁 No.1376 不動産所得の収入計上時期

○参考法令
・民法第898条(共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

・民法第909条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

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