遺産分割協議中に生じた相続不動産の賃料の帰属について①
○はじめに
昨今の相続税対策ブームからか、相続財産に賃貸不動産が含まれる事例が多いです。しかし、遺産分割協議が長期化した場合、相続開始から遺産分割までの間の賃料収入が多額になることも考えられます。したがって、この賃料収入についても新たな争いの種になることもあるのです。
○賃料の帰属先
遺産分割後の賃料については、賃貸不動産の取得者が賃料を取得することになりますが、問題は遺産分割協議の成立までに発生する賃料です。
原則として、遺産分割協議中、賃貸不動産は共同相続人が共有していることから、そこから生じる収益は各共同相続人がその相続分に応じて取得するものとされています。(最高裁平成17年9月8日判決)しかし、賃料について遺産分割の対象とすることに共同相続人全員の合意があった場合には、例外的に賃料を遺産分割の対象にしてもよいと考えられています。(東京高裁昭和63年1月14日判決)
○トラブルの回避
賃料の帰属については、実際には協議中に解決されることが多いです。しかし、賃料について合意ができない場合、賃料を取得している相続人に対し、他の相続人は不当利得返還請求をすることとなります。
トラブルを避けるための方法として、生前に被相続人に遺言書を作成してもらう手立てがあります。遺言がある場合、遺言の効果が相続開始時から生じるので、遺言により賃貸不動産を取得する方が、その賃料を直ちに取得することとなります。また、被相続人の死亡が判明し銀行口座が凍結されたため、相続人の一人が賃借人から賃料を代わりに受け取っていた場合などは、遺産分割協議が終わり賃料の帰属・分配が決まるまで、その賃料を注意して管理することが大切です。
一方で、税務ではこの賃料の帰属はどのような扱いになるのでしょうか。次回は税務面から問題点をご紹介したいと思います。
○関係法令
・民法第898条(共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
・民法第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2~3(略)
・民法第909条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
・民法第985条(遺言の効力の発生時期)
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2(略)
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